発達障害(発達症)
発達の早い時期からあらわれる脳のはたらき方や発達過程の特性(脳の機能や発達の特性)があり、その影響で日常生活、社会参加、学業、就労に困難を及ぼす、つまり適応に障害が生じたとき「発達障害」(「発達症」)といいます。
発達症には「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」、「注意欠如多動症(注意欠如多動性障害(ADHD))」、「限局性学習症(限局性学習障害)」などがあります。その特徴は子どもの頃から見られますが、大人になっても消えてしまうわけではありません。
ADHD(注意欠如・多動症 )
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)とは
年齢や発達の程度に釣り合わないほど、不注意や多動性・衝動性が、学校でも職場でも家でも特定の場所に限らず見られ、そのために学業や仕事その他の社会生活に支障をきたしている状態をADHDといいます。具体的には、
不注意
- すぐに気が散ってしまう。
- 見逃しや見過ごしなどうっかりミスをする。
- 順序立てて作業したり、時間を管理することができない。
- 忘れ物、なくし物が多い。
- 約束したことなどを忘れっぽい。
多動性
- 落ち着きなく、じっとしていられない。
- 着席していられない、座っていても手足をそわそわ動かす。
- しゃべりすぎる。
衝動性
- 質問が終わる前に出し抜いて答えてしまう。
- 他人のしていることをさえぎったり、じゃまをする。
- 順番を待つことができない。
などの特徴がいろんな場面で子どもの頃から見られます。
読み書きが苦手という限局性学習症や自閉スペクトラム症、チック症などを併せ持っている人もいます。
まず、親や先生がADHDのことをよく理解しておく必要があります。正しい理解にもとづいて、適切な支援を行います。学校の先生などにはよくわかってもらい、「わがままな子、しつけができていない子」などという誤解を受けないようにし、学校での支援や配慮をしっかりしてもらいましょう。
頭ごなしに叱らず、具体的な助言をして、良いところやうまくできたことを褒めましょう。
刺激を減らして気が散らないような環境を整えます。段取りや約束事をわかりやすく目に入るようにしたり、忘れ物をなくす工夫をします。
ADHD治療薬
ADHDの症状を緩和することのできる薬が使えます。症状を無くして治癒させる薬ではなく、あくまで対症的に目立つ症状を緩和するはたらきのある薬です。
薬を使用することによって、本人も周囲の人も困ることが減り、勉強や仕事や様々な活動がうまくできるようになります。薬を飲みながら、心理社会的支援を行います。つまり、周囲の理解を求め、環境を整え、スキルを身につけることでトラブルが減って自信を取り戻すことができます。
自閉症スペクトラム
自閉症スペクトラムとは
融通を利かせて臨機応変に対人関係を調整するのが苦手だったり、自分の関心やペース・やり方にこだわりやすい人は「自閉スペクトラム特性」の強い人かもしれません。
自閉スペクトラム」というのは次の2つをあわせ持つ発達上の特性です。
- 一つは、社会的コミュニケーションや社会的相互交流が難しいこと(言わずもがなの(自動的)対人情報処理の弱さ)。
- もう一つは、興味関心・行動の限局や反復性(こだわり)があること(細部・規則性・同一性へのこだわり)です。
これ自体はその人が持って生まれた脳のはたらき方の特徴で、決して病気でもなければ、「障害」というわけでもありません。その特性から環境に適応しづらくなり、援助が必要になった時、「自閉症スペクトラム」とか「自閉スペクトラム症」という診断をつけてサポートしていくことになります。
具体的には人によって年齢によって様々ですが、下記のような問題があげられます。
コミュニケーションや社会的交流の問題
- 言葉の表出の遅れがある。
- 言葉の理解の遅れがある(話せているほどにはわかっていない)。
- (自分の興味のあることを)一方的に話す(会話の相互性の乏しさ)。
- 言葉を文字通り解釈(文脈の無視)する、たとえ話・冗談・皮肉・ほのめかしがわかりにくい。
- 視線が合いにくい。
- 一人遊びばかりしている。
- 人見知りがない。
- 同年齢の子とうまく付き合えない。
- など
こだわりについての問題
- 特定の対象への強い興味・関心(それ以外は関心がない)。
- 身辺活動の決まった手順・やり方、服装や食べ物へのこだわりが強い。
- 物の置き場所、並べる順番、道順にこだわる。
- 「勝つこと」や「一番になること」にこだわる。
- ルールをかたくなに守る(ルール破りを許せない)。
- 「マイペース」で行動し、予定・スケジュールのささいな変更に弱い。
- 新しい場所・場面・課題が苦手。
- など
また、感覚面の敏感さや鈍感さがあることもあります。 多いのは特定の音に敏感なこと。掃除機やドライヤーなどのモーター音が嫌いだったり、休み時間の子どもの歓声を嫌がったりすることがあります。また、ささいな光や匂いに敏感であったり、肌ざわりなど触覚の敏感さなどがみられます。逆に痛みや暑さ寒さには鈍感であったりもします。
自閉症スペクトラムの人に見られる特徴は成長とともに変化しますが、大人になっても消えるわけではありません。
自閉スペクトラム症に並存しやすい疾患や二次的問題
自閉症スペクトラムのお子さんは、ADHD(注意欠如多動症)や限局性学習症(学習障害)、または発達性協調運動障害(不器用さ)をあわせもっていることも少なくありません。それぞれに応じた支援が必要です。
ストレスの多い環境で生きづらさを感じてしまうと、精神的変調が現れてしまうことも少なくありません。素因と環境の影響で二次的に並存する精神症状が目立ってくることがあります。
たとえば次のような症状です。
- 身体症状症、変換症/転換性障害
- チック症群(トゥレット症)
- 不登校・引きこもり
- 強迫症(抜毛症、醜形恐怖症)
- 不安症(社交不安症、選択性かん黙)
- 抑うつ障害群(うつ病)・双極性障害
- 精神病様症状(幻覚・妄想)
- 食行動障害/摂食障害(神経性やせ症)
- 性別違和
- 素行症
- 物質関連障害・嗜癖性障害(インターネット依存・ゲーム障害)
- など
また、これらの症状のために相談に来られた人に自閉スペクトラムの特性が強く見られることはよくあることです。その特性に配慮したサポートや環境調整が改善には欠かせません。
対人社会性やこだわりのような中核症状に明らかな効果のある薬はいまのところありません。
ただ、易刺激性、興奮、自傷などの随伴する症状や、うつ状態やチックなどの並存する症状には薬が効果的なことがあります。補助的に薬の助けを得ることで支援がしやすくなることもあります。
支援のポイント
自発的・自動的に対人社会的な情報に注目できない自閉スペクトラムの人には、あいまいな言い方ではうまく伝わりません。はっきり具体的に(明示的に)伝える工夫がいります。そのひとつが「構造化」です。見てわかる手がかりを積極的に使うこと、視覚支援・可視化です。
構造化というのは、場面の意味と見通しを明確に、情報を整理して伝える工夫のことです。 「What(何を)、When(いつ、いつまで)、Who(だれが)、Where(どこで)、How(どのように)、Why(なぜ)」するのか、わかりやすくする工夫です。
言葉がなかなか話せない場合には、(自発的)コミュニケーション支援と言って、やはり視覚的な手がかりを用いる方法で自分の意思が伝えられるようにします。
集団生活で必要な人とのやりとりの仕方、ルール、マナーなどを学んでいくソーシャルスキルの学習も重要です。
こだわりは、ただ消そうとするのではなく、ときには尊重し、より安全で好ましいこだわりを増やすように促します(これを私は「こだわりエネルギーの平和利用」と呼んでいます)。
学校教育の現場では特性に合わせた特別な支援、合理的な配慮をしてもらいます。安全・安心な環境のもとで、達成しやすい課題を与えたり、得意分野で評価されるようにしてあげることで、自尊感情(自己効力感・肯定感)を保てるようになります。
自閉スペクトラム特性というのは人間にみられる神経多様性(ニューロダイバーシティ)のひとつです。優れた能力を発揮する原動力にもなります。
しかし、あくまで少数者ですから、環境によっては生きづらさが生じてしまいます。自閉症スペクトラムの人への支援の目的は、矯正によって「正常・普通・定型」になることを目指すことではありません。自閉スペクトラム者として、こころの健康を保ちながら、安心して健やかな成長を遂げ、自分に合った生き方を実現できるよう援助することです。
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